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第2章 光と影の間で 第22話

Author: 花宮守
last update Huling Na-update: 2025-03-30 00:00:21

 目が覚めたのはお昼過ぎ。体もベッドも綺麗になっていた。光が眩しい。カーテンを開けると、台風は通り過ぎていた。乱暴な洗濯機の中に放り込まれていたような世界は、すっかり洗われて輝いている。

 何も着ないでベッドから出た私の体には、晧司さんに愛された赤い痕。そこに触れただけで、熱い瞬間がよみがえる。お腹の奥に残る充実感。

「なぜ……」

 疼く胸は、私が忘れた答えを知っている。昨夜、私は晧司さんのもので、晧司さんも……私のものだった。決定的な言葉はなかったけど……。

 カーテンを握りしめて嵐の夜を反芻していると、どんどんいけない気持ちになっていく。振り切るように、シャワーを浴びにいった。

 怠い体を励ましてリビングへ行くと、晧司さんの姿はなかった。情事の名残は拭い去られている。部屋の様子は、昨夜私が帰ってきた時とあまり変わらない。

「まだ起きてない……?」

 彼の寝室は、私の部屋の隣。静まり返っていたから、もう起きているものだと思っていた。引き返して寝室の前まで行くと、中から扉が開いた。重い足取り。前髪が乱れ、顔色の悪い晧司さんが、私を見て瞳を揺らした。素肌に夏のガウンを纏っている。

「リン、昨夜は……」

 声もひどい。体がふらついて、私の方へぐらりと倒れそうになったのを、壁に寄りかかってかろうじて支えている始末。

「二日酔いですね……」

「そんなことはいい。昨夜はすまなかった。私は君に……ゴホッ」

「『そんなこと』じゃありません。ベッドに戻ってください。私につかまって」

 頭痛に障らないように声を落とし、彼を寝かせて窓を開けた。

「少し、空気を入れ替えますね。冷製のスープがあるから、持ってきましょうか?」

「うん……それもいいが、頼みがある」

「何でも言ってください」

「春日を呼んで、君はこの部屋には近付かないことだ。無理に私の世話を焼く必要はないんだよ」

「春日さんですか? 明日みえますけど、その前にお仕事のお話があるなら……」

「そうじゃない。こんな男に関わってはいけないと言っているんだ」

 私に向けた背中は、反対のことを訴えている。リン、行かないでくれ――っ
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    Huling Na-update : 2025-03-31
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     心臓が飛び出しそうになった。いけないと思いながらも奥を覗くと、もうひとつ。やや大きめの、同じデザインの指輪があった。 「晧司さんの……」  指輪の跡は、これだったんだ。手前に転がってきたのは、彼が誰かに贈ったもの。私の指にも、合いそうだけど……。  自分の左手薬指に通そうとして、我に返って思いとどまった。指輪のサイズが合うからって、何なの。これが私のものなら、彼は私をそれにふさわしい間柄だと明かせばいい。日本は従兄妹同士だって結婚できる。  私が彼と深い関係にあったのなら……離れないと誓った仲なら、「関わってはいけない」という言葉はおかしい。夕李とのデートを黙認するはずもない。晧司さんは私に対する執着を隠さないのに、一方で突き放そうとしてくる。  ゴホッ  壁を通して、咳き込んでいるのが聞こえた。指輪を奥へ戻し、ノートだけを持って書斎を出た。今は、自分にわかることをしよう。「思うままに進んでください」と言ってくれたのは、春日さん。七華さんも、記憶を失う前の私に「社長を信じてあげてください」と。何よりも、私の心と体があの人を受け入れた。そばにいたい。連れてこられたからではなく、自分の意志で。 「……ふぅ」  キッチンのカウンターにノートを置き、ドリンクの材料を用意しながら頭を整理した。彼は、わざとあの引出しを私に見せたのだろうか。決断させるために。それとも、意識が朦朧としていて、うっかりした? 今頃、頭を抱えていたりして。指輪のことは、見なかった振りをした方がいいのかもしれない……。  お盆に乗せたスープの横に、並々とドリンクを注いだグラスを乗せたところで、気が付いた。ノートの存在を忘れていたことに。 「私……」  キッチンに入ってから、レシピを一度も確認せずにドリンクを作っていた。書斎でちらっとそのページを見たとはいえ、今は閉じている。材料も器具も、無意識に整えていた。 「体で覚えてた……?」  それなら、さっき浮かんだ会話も記憶のかけらということになる。私は、晧司さんが二日酔いに悩まされた時に、効果覿面のドリンクを作ってあげる立場にあった……あの会話には、お互いを甘やかすような親密な雰囲気が漂っていた。親しい従兄妹なら……まして昨夜のようなことをする仲だったのなら、何の不思議もない。  重いお盆を持って、寝室へと戻る。五か月前、病院

    Huling Na-update : 2025-03-31
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     額から唇を離した時、伸びてきた腕に閉じ込められた。弱ってはいても、彼の力は難なく私を引き寄せ、隣に寝かせてしまう。じっと見つめられ、言葉を発するのがもったいない気がした。晧司さんがまた拒絶の言葉を口にするまでは、彼と私はひとつなのだと感じていられる。「……」「……」 二人とも、何というか……頑固だ。 彼は、指輪のことを問われるのを待っているのかもしれない。私は、聞きたくない。いくつかの可能性が考えられるけれど、どれも確信を持てないから。 私の記憶が戻るのを、彼が待っているのかどうかも、わからなくなってきた。私の中に、行き場を求めて壁の向こうから叫び続けている記憶があるように、彼の中にはたくさんの言葉が詰まっているのだろう。私は何らかの原因で記憶を封じられてしまい、晧司さんはそのために言葉を……想いを封じた。 開いた窓からは、朝の緑の香り。淫夢のような昨夜が、一秒ごとに過去になる。「あのドリンク、作ってみました。飲みますか?」 小さく問うと、力なく微笑んで半身を起こした。机の上のグラスを取り、手渡す。私には大きめのグラスが、彼の手にはすっぽりおさまっている。 彼は、片手でしっかりと私の腰を抱き、ぐいっとグラスを煽った。お世辞にも、あの……おいしそうではないんだけど、大丈夫なのかしら。ごくごくと、喉が動く。息をついたら残りを飲むのがいやになるから、無理やり飲み込んでいるみたい。味見はしてないけど……苦いんだろうな。「はぁ……」 グラスが空になった。ため息とともに下りてきたそれを受け取り、机に置いた。「さすがだ……ゴホッ。見事に、コホン、再現されている」「よかったです、って……言っていいんでしょうか」「もちろんだよ。ありがとう……ふぅ」 残った苦味を持て余すように、唇を曲げている。 ――良薬口に苦し、ですよ。 あの言葉のあと、『彼女』はどうするかしら……と考えて、キスをした。口内に残るドリンクの味が伝わってくる……こ、これはっ。こんなものが二日酔いに効くの!? 本当に!? 晧司さんは、丸く見開いた目を徐々に細めて、口直しと言わんばかりに私の唇を味わった。あ……苦味が薄れてきた……甘い甘い、彼の想い……。

    Huling Na-update : 2025-04-24
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     爽やかな朝の空気で満たされていく部屋の中、唇で熱を分け合う。このまま、昨夜の続きになだれ込んでも構わない……彼の手の力も強まっていくし……ああでも彼は体調が悪いんだった!「ン……はぁっ……晧司、さん」 ぽんぽん、と肩を叩くと、「もっと」という目をされた。二日酔いで、たぶん風邪も引いていて、私を抱いてしまった後悔の塊を抱えながらも、触れればこうして求めてくれる。彼が元気を取り戻せば、もう少し冷静に話ができると思うから……今は、看病が優先。「スープ、飲みましょう? 具がすっかり溶けているので、喉にはあまり障らないと思います」 髪を撫でて言い聞かせると、拗ねた子供のように頷いて体を離した。かわいいっ! 事態はなかなかに複雑なのに、胸がキュンキュン騒ぐ。スープを取る前に窓を少し閉めようと動くと、くいっと服を引っ張られた。……それ、ちょっと前の私がやるならともかく、晧司さんが。かわいくて悶え死にそう。「窓を閉めるだけ……すぐですから」「そのままでいい。だから……」 ――離れたくない。 瞳に浮かんだ心の声に、負けてしまった。彼が眠っている時に、こっそり閉めればいいかな……。「わかりました」 よしよしと宥めて、お盆ごとスープをベッドの上へ。新鮮な野菜が溶け込んだトマト味。持ち手のついているカップだから一人でも飲めそうだけど、試しに私の手で口元に持っていった。彼は満足そうにそれを受け入れ、こくんとひと口飲んだ。こくん、こくんと吸収されていく栄養。支えるでもなく彼の背に手を添えると、言いようのない安心感が生まれた。おそらくこの距離は、私たちにとってごく自然なもの。 脳裏に焼き付いた指輪の輝きは、いつかはその意味を知らなくてはならない。怖いけど、今の私にできるのは、現在と未来をしっかり生きていくこと。怯まずに明日を迎え続けていけば、過去の点と結びつく瞬間が、また訪れるだろう。 古代の人々は

    Huling Na-update : 2025-04-27
  • 愛は星影に抱かれて   第2章 光と影の間で 第27話

     彼はスープを飲み干し、「少し眠るよ。そばにいてくれないか」と言った。「はい」と答え、ベッドの縁に座った。 数分後、規則正しい寝息が聞こえてきた。そっと立ち上がり、肩までブランケットを引き上げた。窓は半分だけ閉め、抜き足差し足でいったん部屋の外へ。お皿を下げ、自分のスマートフォンを持って彼の寝室へと戻った。 椅子に座り、彼の呼吸を聞きながら春日さんにメールを書いた。『晧司さんが二日酔いと、風邪も引いているようです。二日酔いの方はリクエストされたドリンクを作ったのですが、どこかに風邪薬はあるでしょうか? 今朝はスープを飲みました』 送信すると、すぐにSMSが入ってきた。『今、話せますか?』『晧司さんがそばで寝ていますが、部屋を出れば』『ではそのままで。鬼の霍乱ですね。あのドリンクを飲めたのなら心配はいらないでしょう。風邪薬はリビングの引出し、上から三段目にあります。甘やかすのはほどほどに』「甘やかすって……」 思わず呟いた。晧司さんが酔った理由も、風邪を引くほど弱ったわけも、春日さんにはお見通しかもしれない。 もう一人、連絡しなければならない人がいる。夕李。昨日、傷つけてしまったのに、「愛してる」と暗号で伝えてくれた。あのあと、彼からの連絡は入っていない。深く息を吸って、文面を考えた。『晧司さんが風邪気味で、今日は一日看病します』 昨日、ホテルに行くまでの間は、これからも会える時は毎日でも会って、関係を深めていくのだと思っていた。けれど、こうなってしまってはもう――。下書きをした文章の最初か最後に、昨日はごめんなさい、と書いてもよいものかどうか。それを書いたら、永遠に終わってしまう気がした。 終わりで、いいんじゃない? 終わりにしなくては――夕李のために。 私の心も体も、どうしようもなく晧司さんに結びついている。それがわかった以上、夕李を縛り付けることは許されない。彼との時間は、とても楽しかったけれど……。 迷って、画面を閉じることもできずにいると、新着メールが入ってきた。「あ……」

    Huling Na-update : 2025-05-01
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    「リン、食事の支度ができたよ」 低く、穏やかな声が私を呼ぶ。「はい、今行きます」「こちらへ運ぼうか?」 戸口から姿を現したのは、従兄の天霧晧司さん。今日も優しい笑顔。「いえ、大丈夫です。今朝はとても気分がいいので」 本心からそう言ったのに、彼は心配そう。部屋の中へ静かに入ってきて、身支度を済ませた私を眩しげに見た。「今日は本当に調子がいいんです。洗顔も着替えも、途中で休むことなく済ませることができたんですよ」 クローゼットから、服を選ぶ余裕もあった。薄い緑色のサマードレス。「それはよかった。しかし、一度に動き過ぎてはいけないよ」「晧司さん、本当に過保護ですね。もうじき、あれから四か月にもなるんですよ」「まだ、四か月だね。正確には3か月半だ」 背を支えてくれる手。私がよろけたり、呼吸が苦しくなったりしないかと、注意深く見守る目。私より十五センチほど背が高くて、すらりとして逞しい。安心して寄りかかれる。長い足は、一人では速足なのに、私と歩く時は歩幅を合わせてくれる。顔を上げると必ず目が合うのは、いつも私を見ていてくれるから。 私の居室を出て、彼の寝室の前を通り、リビングへ。明るい朝日が差し込み、コーヒーのいい香りが漂っている。「今日もいいお天気」「梅雨明け宣言はないが、今年は早いのではと予想されているね。光で目が痛くはないかい?」「ええ。目は何ともないんですもの。……あ」「うん?」 晧司さんは私の視線を追った。リビングの階段を降りると、その先は『大きなリビング』。湖の上に張り出したテラスへと続く、この別荘の中でもとびきり素敵な場所。「テラスまで降りたい?」 遠慮がちに頷いた。駄目って言われるかな。でも、キラキラ光る水面を見ながら、晧司さんのおいしいお料理を食べたいな。 彼はちょっと思案してから、フッと笑った。わ、かっこいい。 見とれている間に、ふわっと抱き上げられた。お姫様抱っこ。緩くまとめたロングヘアが彼の腕にかかる。「晧司さん?」「では参りましょうか、姫」「え、あの……」「しっかりつかまって」「あ……はい」 おずおずと、肩に手をおいて首に手をまわす。病院からここへ移ってきた時も、ほかの時も、何度もこうして抱っこされた。そのたび、私でいいのかなっていう気持ちになる。十も年上の、よくは知らないけど大変な資産家だ

    Huling Na-update : 2025-02-09
  • 愛は星影に抱かれて   第1章 年の離れた従兄 第2話

    『大きなリビング』からテラスへと出られる窓は、開け放たれていた。半分だけ屋根がある広いテラスには、朝食の支度が整っている。晧司さんは、柔らかな椅子に私をそっと下ろした。彼は、向かい側ではなく私の右隣。  七月上旬の光は強いけれど、適度に日陰ができる造りなのであまり気にならない。水面を渡るそよ風は涼気を含んでいる。 「気持ちいい……」  ほぅ、と息をついて、コーヒーのポットに手を伸ばした。晧司さんのカップを引き寄せ、ゆっくり注ぐ。彼は何か言いかけたけれど、黙って待ってくれた。ん……重いけど、大丈夫。ポットを置くと「ありがとう」と温かな声。彼はお返しにと、私にカフェオレを作ってくれた。飲み物がそろったところで、食事が始まった。 「いただきます」 「いただきます。……どうかな?」 「おいしいです、とっても!」  フレッシュな野菜とハムのサンドイッチ。チキンサラダに、私が好きなゆで加減の卵に、コーンスープ。どれも素材の味が生きている。 「握力も食欲も、もうほとんど元通りだ。よく頑張ったね」 「晧司さんのおかげです。私が目を覚ましてから三か月、毎日リハビリに付き添ってくださって。その前も、退院してからも、こんなに……本当にありがとうございます」 「私は、自分がしたいからしているだけだよ」  彼は、私が眠り続けていた三か月の間も、親族としてめんどうを見てくれた。寝たきりで低下していた筋力が順調に回復してきたのも、彼が毎日、献身的に世話をしてくれたからだと、お医者様から聞いている。腕も足も、弱らないようにと少しずつ動かしてくれていた。毎日、毎日……。事故で意識を失い、一向に目を開けず、一生そのままかもしれないとさえ言われた私のために。  どこからともなく意識が浮上し、自分が何者なのかもわからず、混乱して縋るように目を開けた時、彼の手が私の指先を包んでいた。驚いて目を見開いた彼が「リン……? 私だ。わかるか? リン!」と呼んだ。それで、私は自分の名を知った。あの瞬間から始まった三か月と半月が、私の記憶のすべて。  意識を取り戻した私は、彼の瞳に浮かんだ光を打ち砕いてしまった。声は出なかったけれど、唇が「誰?」と動いた。「……自分の名は? 姓は」と震える声で聞かれ、答えられなかった。リンは鈴と書くことも、姓が天霧であることも、父方

    Huling Na-update : 2025-02-09
  • 愛は星影に抱かれて   第1章 年の離れた従兄 第3話

     天霧鈴、二十七歳。十二月二十一日で、二十八歳を迎える。  今、わかっていることはそれだけ。職業も、元の住まいも、晧司さん以外の身内の存在も、一切知らされていない。先入観なく自分で思い出せるのならその方がよいから、と言われている。 あの日、お医者様に呼ばれた晧司さんは、「すぐ戻るよ」と私の手を握った。彼の体温だけが、この世で唯一、確かなものに感じられた。ほかに私を知っているという人が現れる様子もなく、看護師さんが何度か出入りした。自分が点滴だけで生かされてきたこと。それは、かなり長い期間であること。少しずつ状況がわかってきた。 病室は特別室で、晧司さんは親族用に仕切られた小部屋で寝泊まりしていた。昼間は私のそばを離れなかった。ノートパソコンを操作したり、誰かと電話で話したりしている時も、私が起きると中断して世話を焼いてくれた。「大事なお仕事の最中なのに」と遠慮すれば、決まって「君の方が優先事項だ」と返ってきた。 最初は眠っている時間が多くて、疑問をぶつける余裕なんてなかった。その時期が過ぎると、だんだんと普通の食事をとれるようになり、リハビリも始まった。病室の外へ出るようになると、思考が働く時間も増えてきたけれど、自分の家族や境遇について、誰かに聞いてみることはしなかった。 リハビリも特別室専用ルームを使っていたから、私の疑問に答えてくれるような人と会うチャンスは少なかった。それに加えて、だんだんとわかってきた自分の性質。物事をじっと観察する癖があり、基本的に、人と話さず結論を出す。お医者様も、「それは病状ではなく、持って生まれた性格というものでしょうね」と請け合った。隣で聞いていた晧司さんの、私の肩に置かれた手が震えた。目に涙をためて、何度も頷いていた。  ――ああ、この人は私をとてもよく知っているんだわ。  そう直感した。 天霧晧司、三十八歳。手広く事業をやっている。穏やかな物腰の中に、私には見せない鋭いナイフを隠し持っている。それでなければ、漏れ聞こえてくる幅広い事業展開は不可能。詳細を調べようとは思わないけれど、彼の背景を想像するのは密かな楽しみ。左手の薬指に残る指輪の跡は、理由を考えようとすると脳が拒絶反応を起こすけれど……。 寝ても覚めても、彼が私の、一番の観察対象。だから、「病院を出て、空気のいいところでゆっくり暮らしてみない

    Huling Na-update : 2025-02-09

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  • 愛は星影に抱かれて   第2章 光と影の間で 第27話

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     ふぅ、と息を吐いた彼は、また体の向きを変えて天井を仰いだ。まだ私の顔を見るのが辛いのか、腕で半分顔を隠している。 「わかった……」  ガラガラの声は、しゃべらせるのがかわいそうになってくる。風邪かもしれない。薬を探して、見つからなかったら春日さんに聞いてみよう。 「すぐ戻りますね」  まずはスープと温かいお茶を持ってこようと、ベッドを離れる私を、「待ってくれ」と引き止めた。 「では……別の頼みだ。こういう時に効くドリンクがあるから、作ってくれないか。レシピは私の書斎の引出しに入っている。上から三番目だ。……これで、鍵が開くから」  貴重品入れから取り出したキーホルダーの中から、一番小さな鍵を示す。 「わかりました」  頼ってくれたのが嬉しくて、廊下を隔てて隣り合っている書斎へと急いだ。 上から三番目の引出しを開けると、ノートが入っていた。ほかにレシピらしきものはないから、これに違いない。開くと、ほとんどのページに新聞の切抜きが貼ってあった。内容は、様々なお料理の作り方。   大きなショッキングピンクの付箋を立てたページがあり、開いてみると、二日酔いに効くドリンクの作り方が書かれていた。何かの物語に出てきたレシピを書き抜いたものらしい。ワープロ打ちをしたものを、プリントアウトして貼ってある。白い紙の余白からノートの罫線まではみ出して書かれているのは、晧司さんの字だった。 『……を足すのはどうだろう?』  何を足すのかは、字がほとんど消えていて読めない。字の横に書かれた三角は、却下ではないけど即採用でもない、という意味に見える。  ――いいんだけどね。もう少し、こう、味がまろやかにならないものかな。  ――良薬口に苦し、ですよ。 「あれ……?」  ふっと浮かんだ会話。晧司さんと……私? 「想像しただけ……だよね」  ショッキングピンクの付箋は、晧司さんの寝室の、机の上にあったのと同じ種類だろう。とすると……。  思案しながら引出しに手をかけると、手前に傾き、奥からコロンと転がってくるものがあった。金の指輪――。

  • 愛は星影に抱かれて   第2章 光と影の間で 第22話

     目が覚めたのはお昼過ぎ。体もベッドも綺麗になっていた。光が眩しい。カーテンを開けると、台風は通り過ぎていた。乱暴な洗濯機の中に放り込まれていたような世界は、すっかり洗われて輝いている。  何も着ないでベッドから出た私の体には、晧司さんに愛された赤い痕。そこに触れただけで、熱い瞬間がよみがえる。お腹の奥に残る充実感。 「なぜ……」  疼く胸は、私が忘れた答えを知っている。昨夜、私は晧司さんのもので、晧司さんも……私のものだった。決定的な言葉はなかったけど……。  カーテンを握りしめて嵐の夜を反芻していると、どんどんいけない気持ちになっていく。振り切るように、シャワーを浴びにいった。 怠い体を励ましてリビングへ行くと、晧司さんの姿はなかった。情事の名残は拭い去られている。部屋の様子は、昨夜私が帰ってきた時とあまり変わらない。 「まだ起きてない……?」  彼の寝室は、私の部屋の隣。静まり返っていたから、もう起きているものだと思っていた。引き返して寝室の前まで行くと、中から扉が開いた。重い足取り。前髪が乱れ、顔色の悪い晧司さんが、私を見て瞳を揺らした。素肌に夏のガウンを纏っている。 「リン、昨夜は……」  声もひどい。体がふらついて、私の方へぐらりと倒れそうになったのを、壁に寄りかかってかろうじて支えている始末。 「二日酔いですね……」 「そんなことはいい。昨夜はすまなかった。私は君に……ゴホッ」 「『そんなこと』じゃありません。ベッドに戻ってください。私につかまって」  頭痛に障らないように声を落とし、彼を寝かせて窓を開けた。 「少し、空気を入れ替えますね。冷製のスープがあるから、持ってきましょうか?」 「うん……それもいいが、頼みがある」 「何でも言ってください」 「春日を呼んで、君はこの部屋には近付かないことだ。無理に私の世話を焼く必要はないんだよ」 「春日さんですか? 明日みえますけど、その前にお仕事のお話があるなら……」 「そうじゃない。こんな男に関わってはいけないと言っているんだ」  私に向けた背中は、反対のことを訴えている。リン、行かないでくれ――っ

  • 愛は星影に抱かれて   第2章 光と影の間で 第21話*

     頭も心も、とろかされていく。晧司さんの冷たい炎は、私に火をつけ、彼自身をも高めていく。「んっ……あ、あ……そこっ……」「リン、いい子だ……何度でも、ほら……」 いつ終わるとも知れない、途切れることのない執拗な行為。服を着たままの彼に後ろから抱きかかえられ、ソファーが時々きしむ音と、絶え間ない水音が羞恥を煽る。もう何度達したかわからない。煌々と明かりの灯るリビングで、私だけが生まれたままの姿で……。外は雷雨。行為が始まった時から遠くで轟いていた雷鳴。今は、私のあられもない姿を知らしめるかのように、連続して稲妻が閃いている。「晧司さん……晧司さん……」 気持ちがよすぎて、けれど状況に混乱して、掠れた声で名前を呼ぶことしかできない。彼はとろとろになった私を食べてしまいそうなくらい、頬に、耳に、肩に、熱い唇を押し付けてくる。汗といろいろなものが彼の服を濡らしていく。顔が見たくて後ろを向いた時、目が合って胸を衝かれた。何て切ない瞳――。「その目はいけないな。まったく君は……」「あっ……待って、晧司さんっ」 抵抗する間もなく、ソファーに仰向けに寝かされた。繰り返されたオーガズムで力が抜けていたせいもある。それまで頑なに服を脱がなかったのが嘘のように、下半身を露わにした彼は、いつも「おはよう」と言う時の顔で優しく笑った。反射的に気が緩み、次の瞬間にはもう、圧倒的な質量の侵入を許してしまっていた。 痛くはない。不快でもない。でも、心が追いつかない。体は悦んでいる。これを待っていたのだと……これが欲しかったのだと、奥へ奥へと彼を受け入れる。呼吸を乱して一糸纏わぬ姿となった彼は、私を宥めながら突き、擦り、揺さぶった。叩きつける雨の音を聞きながら、激情の波に攫われていく。 動きが制約されることに焦れてくると、晧司さんはつながったまま私を抱え上げ、私のベッド

  • 愛は星影に抱かれて   第2章 光と影の間で 第20話*

    「晧司さん……?」 「お帰り、リン」 「起きてた……?」 「かわいい気配と、石鹸の香りでね」  髪を弄ぶ指にドキッとした。腰を抱く大きな手も、夕李との行為を連想させる。 「ん? 今日はどんな悪いことをしたんだ? 言ってごらん」  耳を食べられてしまいそうな囁き方……背骨をすーっと撫で上げる触れ方……頭のてっぺんから足の爪先まで、ゾクゾクと電流が走る。  ――この感じ、知ってる! 「リン、答えるんだ」  髪をよける手つきも、私を射竦める目も、優しい従兄のものではない。男の人のもの。酔っているから? 寝ぼけて、昔の私と話しているつもりかもしれないし……何だか、怖い……。 「ンッ……」  腰から下の形を確かめるように丸く撫でられて、甘い声が漏れた。 「ほぅ……情熱的だ。さすが、若いな」 「え? ……あっ」  髪で隠していたキスマーク。晧司さんは、寝間着の襟から覗くそれに爪を立てた。 「ん、んっ」  局所的な鋭い痛みが、体の奥まで浸透する。いやがっていないどころか悦びさえも感じる自分に、戦慄を覚えた。体を反転させられ、彼がのしかかってきた。「よく見せなさい」とほかのキスマークに噛みつかれ、体中を点検するように脱がされていく。彼の肌の温もりに、泣きたくなった。 「はぁ、あ、ん……」 「もっと声を出して……素直になりなさい」  素直に、って……。夕李が付けた痕を上書きされ、背中も太腿も点検されて……足の指の一本一本まで、「私のものだ」と教え込むかのような念入りな愛撫。どっと溢れる愛液。濡れそぼった秘所を、晧司さんは異様な目で見つめた。 「や……恥ずかしい」 「許したのか? ここを」  氷のように冷たい声。思い切り首を横に振った。 「確かめなくてはな……」  侵入してきた指を、私の体は拒まなかった。

  • 愛は星影に抱かれて   第2章 光と影の間で 第19話

     ラグにぺたんと座り、ソファーの縁に手をかけて呟いた。あなたはこの世の何より私を大事にしてくれるけど、私たちはただの従兄妹同士。夕李は私を愛してくれていて、私も心が動いたはずなのに、受け入れることができなかった。二人とも悲しそうで、それは確かに私のせいなんだ。「どうすればいいっていうの……」 起きてよ。教えてよ、晧司さん。あなたは全部知っているんでしょう。知識だけで構わない。経験として思い出せなくてもいい。今すぐ、知りたい。「り、ん……」 ハッと顔を上げると、彼は安心しきった笑みを浮かべていた。夢を見てる。今ではない、以前の私の夢だ。晧司さんのことを、たくさん知っていた頃の私――。 たまらなくなって立ち上がり、自分の部屋へと逃げ込んだ。 私の部屋は、奥のドアから専用のお風呂場へ行ける。すっきりしない気持ちを洗い流したくて、シャワーを浴びた。洗面所にもなっている脱衣所の鏡を覗くと、何をしてきたのか一目でわかる痕がいくつも付いていた。夏のワンピースタイプの寝間着では隠し切れない。髪を垂らしてごまかした。「晧司さん、大丈夫かな……」 さっぱりとした体で考えれば、自分の子供じみた振る舞いが恥ずかしくなる。悲しんでみても始まらない。デートが失敗したのは、私の心の準備が足りなかったせい。夕李は、待つと言ってくれた。今夜のことで、お互いに悪感情を抱いたわけでもない。 晧司さんの方は、妹の初デートで気を揉む兄のような気持ちだったのかもしれない。あれだけ過保護なんだもの、考えすぎてしまう前にお酒に逃げることは十分に考えられる。説明のつかないことが多いにしても、目の前の情報を的確に読み取る努力はできる。私が彼の立場でも、居ても立っても居られないだろう。 八月といっても、この辺りは朝晩の気温が低い。あのままでは風邪を引いてしまう。気になって見に行くと、体勢を変えることなく眠っていた。引き続きいい夢を見ているのか、表情は穏やか。ぐちゃぐちゃだった私の心も静まっていく。「リン……そっちへ行ってはいけないよ……リン&

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